murawaki の雑記

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Distortion in Mongolian-Japanese alignment

モンゴル語と日本語は類型論的に似てるという話は何度かしてきた。*1モンゴル語はたいていの場合、語順をひっくり返すことなく日本語に翻訳できる。そうは言っても、ある事柄を自然に説明する2つの表現が同じ語順であるとは限らない。語順をひっくり返した方が自然になる例を集めてみた。一応機械翻訳を想定しているが人手で対応付ける。

例文は python-mongoliaFreeBSD гарын авлага からとっている。日本語訳は自作。

ぼちぼち増やしていく予定。

括弧と助詞

вэб сайтаас (http://www.python.org)
ウェブサイト (http://www.python.org) から

モンゴル語では、奪格の名詞接尾辞 -аас (~から) が сайт (サイト) に後続する。日本語の場合は括弧の後ろに持ってきた方が自然。日本語の助詞に比べて、モンゴル語では名詞接尾辞は従属度が高く切り離しにくい。括弧内にはいくらでも要素を突っ込めるから長距離依存になる。

интернэт төрлийн протокол нь (IPv4) бүрэн хангалттай болохоор ...
インターネット型のプロトコル (IPv4) 十分なので...

人称接辞の нь も。実質的に主語を明示している。

зөвхөн

winreg модуль нь зөвхөн Windows системд байдаг.
winreg モジュールは Windows システムのみにあります。

モンゴル語зөвхөн は後続のフレーズを限定するが、日本語の「のみ」は先行するフレーズを限定する。alignment はなんとかなるだろうが、翻訳時には限定対象 (スコープ) を認識しないといけない。「Windows システムにのみ」としてもいけるし、「Windows システムにあるだけです。」としてもいける。難しそう。

文脈によっては зөвхөн の位置に「ただ」を入れるとひっくり返さずにすむが、あまり自然にならない。

болгон, бүр

Пайтон хөгжүүлэгч болгон
Python 開発者が

тэмдэгт бүрийн 2 талд
文字の両側に

「~ごと」と訳せば語順通りだが、上の例ではやりにくい。ひっくり返して「各」を使うと自然。これもスコープ同定問題が発生しそう。「各 Python 開発者」と「Python 各開発者」のどちらが自然かといわれると、この場合はどちらでも良さそう。

хэдийгээр

Хэдийгээр хүрээ нь статик байдаг боловч ..
スコープは静的であるにもかかわらず、

モンゴル語хэдийгээр は逆接の節の先頭に置かれる。節の終わりは боловчч гэсэн で受けることが多い。хэдийгээр にあたる日本語の表現を思いつかないから NULL 対応。

хэтэрхий

хэтэрхий урт
すぎる

「余りに長い」と訳せば語順が保てるけど。普通は隣の語とひっくり返すだけだから、それほど難しくないはず。

битгий, бүү

битгий эргэлзээрэй
ためらわないでください

бүү холь
混ぜないように

古語の「な~そ」みたい。動詞に先行する要素で禁止を表す。

-тай

1 урттай тэмдэгт мөр гэж ойлгодог
長さ1の文字列とみなします

79 тэмдэгтийн уртаар
長さ79文字で

1 урттай は「長さ1の」としか訳しようがない。無理矢理語順通りに訳すなら「1の長さある」

нэгээс олон удаа

нэгээс олон удаа
1度以上

直訳すれば「1より多い回数」。

同格

PYTHONPATH орчны хувьсагч
環境変数 PYTHONPATH

Пайтон 2.3 хувилбараас эхлэн
Python バージョン 2.3 以来

Бүлэг 25
25章

英語風の語順とアルタイ系の語順をとる場合がずれている。

並列

Ганц болон олон хэрэглэгчийн орчны ...
シングルおよびマルチユーザ環境の...

distortion とは違うがついでに。AC and BC 型の coordination は、日本語だと何となく (A and B) C と書きにくい。上の例も「シングルユーザ環境とマルチユーザ環境の」としたくなる。モンゴル語の場合は (A and B) C 型が普通っぽい。

*1:類型論の真面目な議論については以下の論文がおすすめ。風間伸次郎. "アルタイ諸言語の3グループ (チュルク、モンゴル、ツングース)、及び朝鮮語、日本語の文法は本当に似ているのか: 対照文法の試み". 「日本語系統論の現在」, 249-340頁, 2003年.