murawaki の雑記

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「戦犯旗」はいつ使われだしたか

世の中のいろんなものがネット上に移行して記録されるようになった結果、何がどう起きたかを後から*1分析できる場合が増えてきた。今回はそういう話。これから色々御託を並べる。けど結局やったことはローテク。ちゃんとした話ならちゃんとした場所で発表する。微妙な政治ネタだし、結論的には新しい情報はない。*2雑記に投げ捨てるのが適当。

お題は、「戦犯旗」(전범기) なる語はいつ使われだしたか。技術屋なので技術を使って何とかしたいところ。しかし韓国語。まずこの時点で、私が自然言語処理を活用するのは厳しい。

以前、Baidu の n-gram を使って、新語 (新用法) の出現時期を求めてみたことがある。しかし、2010年7月までのデータなので、いい加減賞味期限切れ。前にいた研究室では、学生に頼んで、自前で時系列コーパスを作ろうとしてみた。クローラを運用していたので。しかし駄目だった。取得するページは最近のものに偏りすぎていた。非力なクローラでは、ほとんど無尽蔵にあるページの一部しか取得できない。新しめのページの取得で精一杯で、古いページまでたどり着かない。もちろん韓国語は対象外。

Twitter は駄目。中の人だったり、契約してデータを貰っていれば良いかもしれない。部外者だから、streaming のデータを貯めこまないといけない。膨大な量だけど、それでも sampling されたデータ。しかも全世界のデータだから、言語を限定するとデータが一気に減る。後で思いついた語を検索しても全然ヒットしない。事前に決めた語を track するぐらいしか使い道はないのではないか。

Google Trends はいまひとつ信用できない。低頻度語の切り捨てが激しい。

Google N-gram は対象言語が限られている。日本語も韓国語もない。

結局、新聞サイトで記事を検索してみる。朝鮮日報は過去1年しか出てこない。東亜日報も古いのが出てこない。

ということで、中央日報を使う。単純マッチングを使っているようで、전범기 (戦犯旗) に対して전범기업 (戦犯企業) も引っかかる。それを除くと初出は2012年8月16日。今ではさも当たり前のように使われているが、ごく最近の造語であることが確認できる。

古い記事は本文が読めない。スニペットから、朴鍾佑のサッカーの試合における政治宣伝と関連付けていることがわかる。試合は2012年8月10日だから、少し時間がたっている。

次は욱일기 (旭日旗) で検索してみる。あまりヒットしない。最初が2004年2月12日。例によってスニペットしか見れない。李丞涓というタレントが慰安婦のコスプレでヌード映像を作ったという話題。炎上マーケティングっぽい。同年同月20日まで計6記事。

その次は2011年1月26日。7年も飛んでいる。またもやサッカー。奇誠庸が2011年1月25日の試合で人種差別パフォーマンスを行って騒ぎになったあとの Twitter での発言を取り上げたもの。Wikipedia がソースなので怪しいが、「Twitterで「観客席の旭日旗を見て涙が出た。私も選手の前に大韓民国国民です…」と発言、旭日旗に腹が立ったことを理由に故意に上記のパフォーマンスを行ったことを主張した。」とのこと。これが計2記事。

次が2011年8月26日に1件、その次が2011年12月24日。その次が2012年8月15日。オリンピックの日本体操チームが使用したユニホームに難癖をつけているっぽい。「戦犯旗」の初出が2012年8月16日だからその前日。2012年11月7日に、かの有名な VANK が反旭日旗の活動を国連前で行ったという記事。ここでようやく具体的な活動がはじまり、年が明けて2013年になると記事の数が爆発的に増える。

事前の予想よりはるかにわかりやすい結果。新聞記事の検索だけで、かなりの程度目的が達成できた。要するに、韓国人はもともと旭日旗に何の関心もなかった。2011年1月にサッカーの試合で人種差別パフォーマンスを行った選手が、言い訳のために旭日旗を持ちだしたのがはじまり。2012年8月にサッカーの試合で別の選手が政治的パフォーマンスを行って世界的に批難をあび、少し経ってから、腹いせのために旭日旗を批難することを思いついたのが次の展開。この段階で「戦犯旗」なる語が発明された。これに VANK が目をつけ、2013年以降大々的な反対活動が行われるようになった。逆に言えば、今の反対活動は、もとはといえば、サッカーにおける逆切れが発端。そんなことをしていると韓国に対する好感度も下がるわけである。

ここまであからさまなら、反旭日旗の活動家 = racist という図式を作るのは難しくなさそう。特に奇誠庸の件は都合が良い。他には、VANK が「디스카운트 재팬」 (discount Japan) という運動をしていたように記憶していたがみつからない。さすがにヤバいと思って消したのだろうか。*3 この図式を補強するために、旭日旗に目をつけてから反対活動を始めるまでの展開が詳細に分析できると良い。時系列データと自然言語処理のツールがあればできるかもしれない。あと、米国籍の人間の活動が目立つが、彼らと韓国との連動具合も分析できるかもしれない。でもデータもツールも持ち合わせていないので私には無理。

2014年6月12日追記: takeda25 氏が詳しい補足を書いてくれているので、そちらも参照してほしい。

2015年7月3日追記: NAVER Trend で上記の結論が再確認できた。このサービスは Googld Trends の韓国版。전범기 (戦犯旗)、욱일기 (旭日旗)、욱일승천기 (旭日昇天旗) をくらべてみた。2007 年 1 月から 2015 年 6 月までの検索語の「検索推移」(?) が週単位で得られる。ちゃんとした凡例がないので推測だが、下部の時間幅を調整できる部分が検索量を表しているみたい。これを見ると、2012 年 8 月頃から旭日旗に関する検索が増えたようである。「戦犯旗」という語がこの 2012 年 8 月に出現したことも確かめられる。期間内で最大の burst は 2011 年 1 月、奇誠庸の事件当時。それ以前は、2007 年 9 月と 2008 年 8 月に小さな burst があるだけ。

2015年11月6日追記: 英語版を書いた。ちょっと情報を追加して。改めて少し調べてみたけど、最近またひどいことになっているみたい。

*1:後からのんびりというわけにはいかない場合もある。例えば、中国のネット検閲の検証などは、リアルタイムでデータを集めないといけない。

*2:私がスポーツニュースを一切追いかけていないのが敗因らしい。私が得た結論はよく知られているみたい。

*3:「4月から始める」という予告であれば Internet Archive に残っていた。